9月6日は「9」「6」を「ク」「ロ」と語呂合わせして、創立40周年を迎えた京都黒染工業協同組合が、1989年に制定した「黒の日」です。
1989年は、昭和64年で始まり平成元年へと移った年であり、バブルの頂点の年であり、そして、天安門事件、ベルリンの壁の崩壊という大きな事件が起こり、世界も大きく動き始めた年です。
では、京都黒染工業協同組合が、なぜ「黒の日」を設けたのか?
最大の理由は、京都の伝統的な「黒染め」の技術と文化を広く知ってもらい、黒紋付や黒留袖などの需要を喚起するためでした。
京都の黒染めは、黒紋付などの“究極の黒”を生み出すために、染色を何度も重ねる高度な職人技により産まれます。
しかし、当時の京都の黒染業者は、問屋から注文を受けて加工する裏方の仕事が中心で、職人や生産者が消費者と直接接する機会が少なく、1980年代には着物離れも進み、業界自体が消費者に直接「黒染めの魅力」を伝える必要性があったのです。
そして黒の日は、日本の伝統色のひとつである「黒」に親しみ、その魅力を再発見するという意味もあります。
黒は古くから日本文化の中で特別な意味を担ってきた色です。
たとえば、漆黒の漆器。光を吸い込むような深い黒は、使い込むほど艶を増し、持ち主の暮らしを映し出す器として愛されてきました。
また、墨の黒は、書や絵画の世界で欠かせません。
濃淡によって無限の表情を生み出し、余白とともに「静けさ」や「間」を表現する日本独自の美意識を支えてきました。
黒は「何もない色」ではなく、むしろ「すべてを受け止める色」ともいえます。
強い色を引き立て、空間を引き締め、時には主役にもなる。
現代のデザインやファッションでも、黒は「個性を際立たせる色」として高く評価されています。
黒い服を着ると、自然と背筋が伸びるような、スイッチがはいるような感覚を覚える方もおられるでしょう。
そこで紹介するのは、
『日本の色辞典』(吉岡幸雄/著・紫紅社・2000)
「・・・たとえば朝、太陽を拝する。その光に照らし出された山や野の万緑が輝き、海や川の水は天を映して碧く澄む。季の花が鮮やかに彩りをそえる。そうした自然の一瞬の姿、はなのひとひら、風に揺れる枝葉の表裏に、木の実の色と形に、人々は魅せられて、それらにゆかしい名をつけるようになっていった・・・。わが列島の自然は、寒暑日ごとにけしきの色をゆるやかに変えていく。人々はその色彩の変容を瞬時にとらえて、色名を冠し、歌に詠み、文に託し、衣に纏うようになってきた。こうしたことは、万葉の頃に始まり、王朝の貴人たちに育まれ、武家のたしなみとなり、江戸の庶民にまでも受け継がれてきた日本人の魂である。これが日本の伝統色である。」(はじめに)より抜粋
日本で育まれた日本独自の伝統色、209色について詳説。
日本人の色に対する造詣の深さ、自然への配慮、美意識、研究心を深く感じることができ、日本人としての誇り、矜持をたしかにします。
日本の染めの重鎮 吉岡幸雄氏の渾身の1冊。
『世界は広く、美しい 地球をつなぐ色 黒』 (長倉 洋海/写真・文・新日本出版社・2016)

「自分の色を探す旅は、ちがう色に出会う旅。
極寒のオーロラの「緑」に心ふるわせ、赤道の水平線にしずむ夕日の「赤」に目をうばわれ、中央アジアのぬけるような空の「青」に息をのむ。それは一つの色にしばられないための旅。新しい風景をさがすための旅だ。」(表紙裏書き)より
世界を旅する中で出会った黒を集めた写真集。
ページをめくると、そこには、見たことのあるような、記憶の中にあるような、そんな、日常を写し取ったシーンがあり、私たちの何気ない日常の中にも意識しない黒があることを教えてくれる。
光と影、陰と陽、そのままの黒。


