本日、8月28日は「ゲーテの誕生日」です。
そう、1749年に生まれたドイツの文豪ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの誕生日です。
聞いたことはあるが読んだことはない。そんな方も多いでしょう。
私も今回の道づれ読書案内を書くにあたり、高校生ぶりにもう一度読み返しました。
ゲーテが生涯をかけて書き上げた傑作といわれる一冊をご紹介いたします。


『ファウスト』( ゲーテ/著、大山 定一/訳・フランクリン・ライブラリー・1984)です。


ドイツ文学の傑作ともいわれる「ファウスト」はゲーテが20代から構想をはじめて晩年の80代まで生涯を通して書き上げた作品です。
あらすじとしては、知識そのものに絶望した老学者ファウスト博士が、悪魔メフィストフェレスと今これよりも最上はないと「Verweile doch! du bist so schön!(フェアヴァイレ・ドッホ ドゥ・ビスト・ゾー・ショーン)」と言葉にした時には魂を奪う」という契約を結び、愛や政治、大事業を経て魂の救済に至る壮大な戯曲です。
もちろん原文はドイツ語で書かれており、日本語へ「ファウスト」を訳した作品は本当に山のようにあります。
見どころであるファウストが理想の土地が今つくりはじめているという、自分という存在が後世に素晴らしいものを残せると心震わせ喜ぶ瞬間に「Verweile doch! du bist so schön!」と思わず呼びかけて、悪魔メフィストフェレスとの契約が果たされる名言の訳も訳者によって千差万別です。

演劇などで有名な「時よ、止まれ!お前は美しい!」の名台詞、今回ご紹介する大山定一は「まあ、待て、おまえはじつにうつくしい」と訳し、明治の文豪である森鴎外は「止まれ、お前はいかにも美しいから」、名訳と呼び声高い手塚富雄は「とまれ、おまえはじつに美しいから」と訳しています。
時代を経てもファウストの物語が訳しつづけられるのは困難で難解な砦を攻略してやるという挑戦のようにも感じますが、この作品の心の置き場所を誰かと分かち合いたいと読んだ人に思わせる繊細なレース編みのような文章の「はっ」と息をのむ美しい衝動なのかもしれません。

「ファウスト」は大変に分厚く長い物語です。
かといってだれかの読んだ感想やあらすじだけではやっぱり味気ないものです。
最近では人工知能AIという存在が日常に染み込みはじめていて、難しいものや面倒なものをわかりやすく要約してくれます。
とても賢く合理的です。
まるでファウスト博士のように知識という知識が、ありとあらゆる解決に向け効率よく集結しています。

しかし多大なる電気というエネルギーとその熱を冷ます水によって成り立つ人の作った存在は、まだファウスト博士のように知識そのものへ絶望する感情はまだ湧き上がってはいないようです。
絶望も歓喜もしないファウスト博士というのも文学作品として成り立ちませんが、うすら寒い予感としてAIはより自然現象に近い存在へと変容しているように感じます。
人工物のはずなのにより自然に近づいているような存在にさえ感じられます。
Aが起きればBがゆれ、Cが起きる。そんな予定調和が細分化されて、ついにAIはバタフライエフェクトのように蝶のはばたきで起きる物理現象まで解析できるようになる日も近いのかもしれません。
こんな想像と希望が現実になりつつある現代社会において、約200年前の作品である「ファウスト」、ぜひあなたという一人の人間として読んでみませんか?
これからのファウスト博士の苦悩をAIといわれる人工知能も経験するのか、それを見守る神に人間がなれるのか。また悪魔メフィストのように一生懸命に世の中に変化を与え、面白くしてやろうと気概をもって頑張ってしまう存在はどうなるのか。
「人間ってなんだっけ」と迷う方へ、迷っていることを精一杯愛おしくも丁寧に書いてある作品のひとつとして「ファウスト」をおすすめいたします。
配架はA-004-004、
フランクリン・ライブラリーの美しい装いの本の一冊です。


【出典】
『ファウスト』(ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ/著、森鴎外/訳・ 青空文庫)
https://www.aozora.gr.jp/cards/001025/files/50909_49238.html (最終確認日:2026年8月27日)
『ファウスト』(ゲーテ/著、手塚富雄/訳・ 中公文庫)
『ファウスト』(ゲーテ/著・小西悟/訳・ 大月書店・1998)
『絵本ファウスト』(山本容子/絵、池内紀/文・集英社・2000)

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