奈良時代に成立した日本の歴史書『日本書記』に次のような一節があります。
三年夏四月、沈水、漂着於淡路嶋、其大一圍。嶋人、不知沈水、以交薪燒於竈。其烟氣遠薫、則異以獻之。(『日本書紀 巻二十二』)
現代語にするとおおよそ次のような意味になるようです。
三年夏四月、沈香が淡路島に漂着した。
その太さは三尺ほどもあった。
島人は沈香ということを知らず、薪と共に竈で炊いた。
するとその煙が遠くまで良い香りを漂わせた。
そこでこれは不思議だとして献上した。
これが日本のお香についてかかれた最初の記述であることと、「香」の字が「一十八日」と読み分けられることから4月18日はお香の日に制定されています。
そこで今日は『香りのチカラ 調香師が知っている、においと人の深いつながり』(平野 奈緒美/著・笠間書院・ 2023)をご紹介します。

著者は30年以上も香りの開発と調香に携わっている調香師。
香水、香りを創る調香師、香料および香料の原料になる植物、嗅覚とにおいが心身に与える影響など、香りにまつわる内容が様々な角度から深くわかりやすく綴られています。
私たちの身の回りには、多くの香りが溢れています。
何気なく感じている花や木々の香り、飲み物や食べ物の香りには、気持ちを和らげたり、記憶を呼び起こしたりする力があります。
著者は、そうした香りの働きをわかりやすく解き明かしながら、香りが私たちの日常に寄り添う大切な存在であることを教えてくれます。ふだん意識せずに感じている香りが、暮らしを彩る大きな役割を果たしていることに気づくことができます。
また、本書のもうひとつの魅力は、普段あまり知る機会のない「調香師」という仕事の世界に触れられることです。
香りはただ心地よいだけでなく、商品や空間の印象を左右する大切な要素です。
その香りを生み出す調香師が、どのように香料を組み合わせ、製品を作り上げていくのか。
フレグランス製品の開発の裏側についても具体的に語られており、香りが生まれるまでの過程の奥深さに驚かされます。
普段何気なく使っている香水や日用品の香りにも、多くの工夫と専門的な技術が込められていることがわかります。
本書を読み終えるころには、身近な日用品を見る目も少し変わるかもしれません。
たとえば洗剤やシャンプー、ハンドクリームなど、ふだん何気なく選んでいる製品にも、それぞれ香りの工夫があります。
これまで「なんとなく好き」と感じていた香りが、どのように作られているのかを知ることで、日常の品々がぐっと身近で興味深いものに感じられるのではないでしょうか。
香りについての知識を得られるだけでなく、毎日の暮らしのなかにある小さな豊かさに目を向けさせてくれる一冊のように感じます。
お香の日に、香りの持つ不思議な力とその奥深い世界にふれてみてはいかがでしょうか。


