元和2(1616)年4月17日、江戸幕府を開いた初代将軍・徳川家康は駿府城で75年の生涯を閉じました。
戦国の乱世をくぐり抜け、江戸幕府という長期政権の礎を築いた家康の最期は、まさに「大往生」と呼ぶにふさわしいものでした。
神君と呼ばれ、さまざまな逸話とともに語られる家康の等身大の姿に迫るのが『徳川家康 新装版 通巻300』(藤井讓治/著・吉川弘文館・2020)です。


家康について書かれた書籍は数多くありますが、本書の大きな特徴は、豊富な一次史料をもとにその生涯を描いている点にあります。
「徳川史観」という言葉があるように、江戸時代に成立した軍記物や編纂物は、ときに事実そのものか、それとも徳川政権を正当化する語りなのか、区別がつきにくい場合があります。徳川政権の成立が歴史の必然であるかのように描かれ、家康の人物像もまた、理想化されて語られることが少なくありません。

本書は、そうしたバイアスがかかった家康像から脱するために、一次資料である古文書・古記録などを丹念にたどって家康の一生を描いています。幼少期の人質生活から三河統一、織田信長との同盟、豊臣秀吉への臣従、関ヶ原の戦い、江戸幕府の成立、そして大御所としての晩年まで、75年の生涯が着実に描かれています。
巻末には「家康の居所・移動表」が付されており、家康がどこで何をしていたのかを具体的に追えるのも大きな魅力です。



また、本書の魅力は、その背後にある膨大な典拠と緻密な史料検証にもあります。
本文には、その典拠となる多くの史料が示されており、一つひとつの記述が確かな裏付けのもとに成り立っていることがわかります。
家康のように長い生涯を送り、多くの史料が残されている人物であればあるほど、その人物像を正確に描くことは容易ではありません。
古文書や書状、日記、記録類など、多岐にわたる史料を読み解き、それぞれの内容を照合しながら事実関係を積み上げていく作業には、途方もない時間と労力が必要です。
華やかな逸話や有名な伝説に流されることなく、信頼できる史料を丹念にたどる姿勢からは、歴史を書くということが、単なる物語づくりではなく、膨大な史料の海のなかから確かな事実をすくい上げる営みであることが伝わってきます。

 

本書が刊行されている吉川弘文館の人物叢書は、日本史上の重要人物を一人ずつ取り上げ、その生涯と時代背景を専門研究者がわかりやすくまとめた評伝シリーズです。
古代から近現代まで、天皇・将軍・武将・政治家・文化人など幅広い人物を網羅しており、日本史を人物から学ぶための定番シリーズとして長く読み継がれています。
専門的な研究成果に基づきながらも、読みやすく、歴史上の人物をその時代のなかで立体的に理解できるのが魅力です。

本書とあわせて、シリーズの他の本も手に取っていただき、さまざまな人物の生きた時代に思いをめぐらせてみてください。
そこには、教科書だけでは見えてこない、豊かな歴史の姿が広がっています。

2026年
10月10日(土)
Weather
開館時間:10:00~19:30
月曜日休館